Rokkys diary

日常をエッセイに

フリーマーケットの男3

(フリーマーケットの男2を読んでない人はhttp://rokky5.hatenablog.com/entry/2019/01/03/063213を読んで下さい)

 

    ゴールデンウィークが終わった。公園の木々は深い緑色に色づき、気温も20℃前後と過ごしやすくなった。あの男と会うようになって1ヶ月近く経つ。彼は毎週日曜日、近所の公園にやってきて、フリーマーケットを行う。商品が売れて無くなると、その男は荷物を纏めて消えてしまう。最近では近所でも、センスのある商品が置いてあるフリーマーケットの店があると噂になっている。

    私は毎週、日曜日が来るのが楽しみになってしまった。今日も私は、朝早い時間に自宅から取ってきた本を一冊手に取り、公園に向かった。(今日は、東野圭吾の白銀ジャックである) 公園に着くと、その若い男はフリーマーケットの準備を始めていた。もうこの男とも顔なじみである。私は彼と軽い世間話をして、商品を1つ買い、家に戻る_。これが最近の私のルーティンである。

     私は読書が趣味なため、本を品定めしていると、店主の若い男が話しかけてきた。

「もうすぐ、フリーマーケットを始めて1ヶ月になります。あなたはいつも一番に買いに来て、一番始めにここからいなくなる_。いなくなる前に聞きたいのですが、ここのお店は気に入ってくれましたか?」

私はうーんと少し考え、

「はい、結構お気に入りです。毎週日曜日が楽しみになったほどです。これほどの品を毎週持ち運んで大変じゃないんですか?」

と私は聞き返した。すると彼は

「いえ、お客さんが別れ際に笑顔で帰っていくので、やりがいがあります!」

と笑顔で答えた。そして10秒ほどであろうか。時が止まったかのように2人とも話さず、鳥の声だけが公園に響き渡る。私が商品に目を移しかけた時、再び彼は話しかけてきた。

「実は、1つ質問があるのですが、いいですか?」

私は「ええ、いいですよ。」と答えた。

 


「ある日、あなたは普通の生活に困らないくらい大金が手に入ったとします。あなたはそのお金をどう使いますか?」

 


    私は、そんな質問がいきなりブッ込まれると思ってなかったので、正直面食らった。「そうですね…。」と眉間に皺を寄せ、顎の下の髭に手を当て考え始めた。

     小さい頃、誰しも考えたことがあるだろう。もし、大金が手に入ったらか_。海外に行ったことないし、世界一周もありな。いや、安定に暮らすならマンションを購入して、家主として生活するのもアリだな。いや、まてよ。株式投資にも興味があるし_。株主優待でゆったり暮らすのもアリだな。頭の中にアイデアがいくつも浮かんだが、マトマすぎるというか、誰しも考えたことのある普通の答えしか浮かばなかった。若い男は私がどう返答するか反応を待っているようだ。

     私は返答に困り、こう答えた。

「難しい質問ですね。色々と考えは浮かぶのですが、どれが一番いいか、考えても検討もつきません。実際大金が手に入らないとわからないかも知れないですね。」

     私の返答に彼は、

「そうですか…」とだけ答えて下に少し俯いた後、顔を上げ、

「変な質問をしてすみませんでした!」

と頭を掻きながら彼は答えた。

「いやいや」と私が頭を横に振ると、

空から雨がポツポツと降り始めた。

     彼は先程出したばかりの商品を片付け始めた。今日は傘を自宅に置いてきてしまった。(というより、天気予報を見てなかったので、雨が降るか分からなかった)おそらく、片付ける順番が決まっているのだろう。荷台に決まった位置であろう場所に荷物を積み始め、5分とかからない内に彼は商品をまとめ終えた。

   私はそれをただ見ていた。彼は会釈して「また、来週会いましょう!」と白い歯を見せ、去っていった。

   私は彼がいなくなった後、家に帰ろうと思ったが、ふと考えてしまった。彼になんて答えればよかったのだろうか_。私は質問に正しく回答できなかった解答者のような気持ちになった。

「大金を手に入れたら、どうしますか?」彼のその言葉がこだまのように頭に響き渡った。

     気づくと雨足が先ほどよりも強くなってきたようだ。私は薄いジャケットを頭にかぶせ、足早に公園を去った。