Rokkys diary

日常をエッセイに

フリーマーケットの男5

(フリーマーケットの男4を読んでない人は

http://rokky5.hatenablog.com/entry/2019/01/07/073611を見てください👍)

 

 「君は前に、普通の生活するのに困らないくらい大金が手に入ったらどうしますか?と質問をしたのを覚えているか?」

「はい覚えています!」若い男は答えた。

「私なりに答えを考えのでここで言ってもいいか?」と彼に聞いてみた。

「いいですよ。その答えを聞いてみたいです。」彼はこちらを見ている。


「私は大金が手に入ったら、自分が最低限暮らせるお金を計算して、それ以外のお金はどこかの慈善団体に寄付するか、誰か困っている人のために使う。お金はあった方がいいが、ありすぎても困ってしまう。お金を持っていても幸せとは限らないしね。私は普通に暮らせたらそれで十分だ。それ以外はいらない。誰か他のお金が必要な人の元に行けばいいと思う。私の意見としてはこんな感じだ。」

私は彼の目を見据えたまま答えた。彼はうんうんとうなづき、

「なるほど、あなたはそう答えましたか。参考になりました!ありがとうございます。」

と頭を下げ、お礼を言ってきた。そして、数秒間両者の間で沈黙が続いた後、若い男は切り出した。

「この質問をしたのは理由があります。実は…最近、まとまった大金を手に入れました。どのようにして手に入れたかは言えませんが、一生暮らすのに困らないほどのお金です。私は働いていた商社をやめました。わたしは自由を手にいれたと思いました。しかし、時間が経つにつれ訪れたのは、安楽ではなく、恐れでした。これほどのお金を今まで持ったことがないので途方に暮れてしまったのです。私は大金を手にした途端、不安で毎日寝れなくなりました。誰かが私を何処からか見ているのではないか?私が大金を持っていることを誰か知って、襲いにくるのではないか?私は妄想に取り憑かれ、寝るのが怖くなりました。」

彼は話始めてから少し間を置き、青い空を見上げたまま話の続きを始めた。

「私をすくってくれたのは本でした。最初は本を読めば自然と眠くなるだろうと思って読んだのがきっかけでした。その本には、ユダヤ人に関することが書かれていました。私はその本のある文が目に留まりました。

 

人は生きている限り奪えないものがある。それは、知識である。


私はこの文を見て思いました。そうか、知識か。目から鱗だ。私は有り余ったお金で本を部屋が埋まるくらい買い、毎日読むことにしました。小説、エッセイ、世界史、アート、宗教、料理本、ビジネス本、海外の本など。読んでいると、今まで知らないことがこんなにもあったのかと驚かされました。私は本に取り憑かれたように読みました。そして、本を大量に読み始めてから、睡眠が取れるようになりました。それから、私の頭は正常に動き始めました。私は世の中に何か還元したいと思い始め、フリーマーケットを始めました。自分の買った本を安く売って他の人にも本の素晴らしさを知ってもらいたいと。」


彼は一通り話し終えると、膝の上に手を当て立ち上がり、空に向かって背伸びした。私は

「そうでしたか。なのでこれほど大量の本を毎週持ってこれるのですね。ようやく合点がいきました。…けど、なぜ私に大金が手に入った話をしたのですか?危ないとは思わなかったのですか?」

私は気になったので尋ねてみた。すると彼は

「いや、あなたは初めて会った時から大丈夫だと思いました。これは感覚的なものではありますが、あなたは信頼できる人だと思いました。あなたはいつもベンチに座って気持ちよさそうに本を読んでいる。私の中では本を読んでいる人に悪い人はいない、と考えています。論理的ではないかと思うのですが、世の中には科学的に説明できない不可解なこともあります。」

私はそう思われていたのかと驚いた。


彼が話し終えると、小さい子供連れの家族が来た。小さい子供は2歳くらいで、敷物に引いてある、動物が描いてある絵本に興味を持ったようだ。手に取ると、こえ、こえ!と(まだ、これと言えないようである)お母さんに買って欲しいとおねだりしている。母親は子供と目線を合わせるためしゃがみこみ、

「しょうがないわね。」

と子供の頭を撫でて、お金をフリーマーケットの男に渡した。子供は欲しい本を手に入れることができ、満足なようだ。

彼らは笑顔で去っていた。


    そこから、何人もお客さんが止まり、人集りが出来はじめた。フリーマーケットの男は笑顔である。彼は、今幸せそうである。私は今日は本を買うのを諦め、来週また、公園に来ることにした。私が背を向け、公園の出口に向かおうとした時、フリーマーケットの男は

「今日はありがとうございました!また会いましょう!」

彼は手を振りながら言った。時刻は昼過ぎである。近くの弁当屋さんに行ってから帰るかと簡単に今日の休みの計画を立てた後、弁当屋のある駅前に向かった。

 

 

 

    1週間後、時刻は7時半。日差しがカーテンの隙間から入り込み、スズメが鳴いている。今日もどうやらいい天気なようである。私は昨日スーパーで買った残り物とインスタント味噌汁で簡単に朝食を済ませ、9時過ぎに家を出た。近所の公園に着いて、いつものベンチに腰を掛け、本を読んでいた。1時間、2時間たってもフリーマーケットの男は来なかった。私は毎週日曜日にこの公園に来てたが、彼と会えなくなるのはこれが初めてだった。私はフリーマーケットをやっている場所の近くに立っていると、

子供連れの母親達が、やってきてこんなことを話していた。

「そういえば聞いた?この公園でやってたフリーマーケット屋さん!どっか別のところに行っちゃったんだってー。」

「えー!そうなの?全然知らなかったー!。ちょっと残念ー。ママさん達の間でも安くていい商品が買えるって評判だったのにー!」

彼女達はベビーカーを引きながら、私の目の前を去っていった。

 

そうか。あの男はどこかに消えてしまったか。寂しいな…。私はちょっと悲しくなった。私は彼の店のファン第1号だったのもあるし、彼に会えなくなるのが寂しかった。せめて、お別れの挨拶くらいしたかったのだが…。

 

私は持っていた本をジャケットの内ポケットにしまい、公園の出口に向かった。

「また、会いましょう!」

彼はたしかにそう言っていた。彼はどこへ行ってしまったのだろうか。公園の出口をでて、すぐのところに目新しいチラシが貼ってあった。

 


「私営図書館 建設予定地

    〇〇区希望ヶ丘〇丁目〇〇番地

     建設終了予定日20〇〇 4月上旬

     市場 由次」

 


来年、新しい図書館が出来るのか。希望ヶ丘か。私の自宅から歩いて15分くらいだから、結構近いな。出来るのが楽しみだな。それまで、何を楽しみにしようかな… 

    空を見上げると、うろこ雲が見える。の方へ移動している。地球が動いているよりも早い速度で動いている。

  

「あなたは大金を手にしたらどうしますか?」

 


私は彼のことを少し思い出し、フッと笑って商店街の方へ向かった。